このコーナーでは、雷門小福師匠が自らの生い立ち、名古屋を中心とした芸界のお話を紹介いたします。

私の名前は捨男(すてお)ですの巻

 この度、師匠の生い立ちから芸談などなど、ご紹介することになりましてので、これからよろしくお願いいたします。

小福
(以降小)
 はいはい。

 お生まれが?

 生まれも名古屋、育ちも名古屋。

自らの生い立ちを笑顔を交えて語る小福師。
 お父さん、お母さんは?

 父は、中島兼三郎(かねさぶろう)、母がさだ。

 実家はどちらでしたか?

 名古屋市東区だな。今の新出来。

 えっ、新出来!! あの銀映の?
 (※銀映・・・名古屋のストリップ劇場と言えばここ銀映。新出来交差点に鎮座ましまし、
   その造りは小屋と言うより劇場と呼ぶに相応しい。女性見学も歓迎。カップル見学席
   も完備。)

 お前、反応早いな。

 えぇ、先日単身で、勉強しに行きましたから。

 入場料、自分で払って?

 もちろんです。

 たわけぇー!! 俺が招待券貰ってきてやるのに。

 えっ!! 本当ですか。その節はお願いいたします。それはともかく、師匠の本名は?

 おぅ、俺は中島捨男(なかじますてお)だな。

 あのー、これはどうしてもおききしたかったことですが、本当に“すてお”ですか?

 そうだよ。

 しかしこの名前、初めて聞いた人は驚いたり、困ったり・・・。

 そうだな。郵便なんかはよく“拾男”と書かれて届くしな。今のシーズンに、デパートに行ってみろよ。お歳暮の用紙に捨男と書くだろ。するとな、ご丁寧に拾男と書き直すんだな。そんなことはしょっちゅうだな。

 私も最初はまさかと思いましたから。別に師匠は捨て子ってわけじゃないですよねぇ。

 違う違う。失礼だなお前は。この名前にはちゃんとその由来があってな。というのは俺は本当は8番目の子供だったんだな。ところがその以前の7人全員がな、死産したんだな。

 今じゃ考えられない。

 そう。当時の医療だわな。で、親も困り果ててだなぁ、お寺に相談に行ったわけだ。で、そこの和尚が言うにはだ、「今度生まれてくる子はもう、捨ててしまったことにしなさい。で、元気に生まれればめっけもんだな。」とこう言ったてんだな。そこで考えついたのが、男の子ならば名前を“捨男”。

 女の子だったら?

 そりゃもちろん、“捨子”(すてこ)だがぁ。

 えっ!! 捨子!! じゃぁ、男で生まれてよかったですねぇ。

 そうそう。

 その時代には、同じ名前の人がいたんですか?

 おう、これがなおったんだな。ある日、後ろから「すてちゃーん、すてちゃーん」って女の子が言うもんだでな、振返ってそっち行こうとしたら俺を呼んだんじゃないんだな。前にいた女の子を呼んだんだな。で、その子の名前が“堀 捨子”だな。同じ名前の子がおったんだな。
 それともう一人。これは随分後になってのことだけど、どこかの偉い人で教育長やっとった人に、“渡辺 捨男”って人がおったなぁ。今まで会ったのはその二人だけだな。

 しかし本当に、ビックリする名前ですよねぇ。

 だけどこの名前、俺はありがたく思ってるよ。俺なんか、小さい時から中島と呼ばれたことなんて一度もないもん。いつでも「おい、ステ!! ステ!!」って呼ばれてた。


整理・整頓。
ここの舞台も客席も連日“ゆるい”ですが、
楽屋内はそうでもないのです。
 それも時代ですかねぇ。今でしたら、間違いなくいじめの対象にされてるでしょうからねぇ。

 おう、そうだろうな。だから名前のこともあって随分とかわいがってもらったよ。

 そうでしたか。

(続く)

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