このコーナーでは毎回、
雷門小福師匠による自らの歩み、名古屋を中心とした芸界のお話などを紹介いたします。


第2回
世は混乱期。私は“ワケあり”話芸に励みますの巻

K いよいよ戦争が激しくなってまいりますと捨男少年はどうしたんですか?

小福(以降、小) 地方へ疎開したな。

K どちらへいきましたか?

小 岐阜県の揖斐(いび)川沿いの田舎に移ったんだな。

先代・助六の貴重映像に釘付けな師弟。(04.01.07)→

K 揖斐川ですかぁ。山間の。今は電車が無くなったりしてますけども。そのころの楽しみというと?

小 おう、その頃の楽しみというとだな、近くのお寺に月に一度の面会日っていうのがあってだな。そのときには親が無理しておはぎを作ったり闇でお菓子を買って来たりしてな。すると俺がそれを取り上げるんだ。そりゃ、ただで取り上げたりはしないよ。
 火鉢を囲んで、「少年探偵団」「怪人20面相」などをだな、江戸川乱歩あたりの作品を俺が読んでな。ただ読むだけじゃ面白くないからな、それにアレンジを加えてな、一席ご機嫌を伺うわけだ。それで面会に来た人のお菓子を取り上げちゃうんだな。

K へぇー。

小 でな、仕入れ元の書物も人から取ったものだからな、結局元手がゼロなんだな。これが面会日にしかやらんのだ。お菓子がある日だけな。

K その時代からお座敷芸をやっていたと。

小 そういうことだなぁ。でぇ戦争が終わってだな。その時中学生だ。その頃は自習が本当多かった。先生も少なくてな。すると俺が教壇へ出てってな、当時映画ではやった愛染かつら。それを俺が一人しゃべりでやるわけだ。
 「愛染かつら。主演・上原謙、高峰三枝子・・・。」なんてな。

K ほう、マルセ太郎の世界ですねぇ。

小 そうそう。おかげでみんな勉強しないから、俺のクラスは皆成績が悪かったよ。

K アハハ。先ほどの面会日といい自習の時間の独演会といい、後日噺家になる素地はこうして作られていったわけですねぇ。
 ところでその中学でのはなしは戦後ですね。名古屋に戻ったわけですか?

小 そうそう。

K 名古屋の新出来ですか?

小 そう。あの辺は焼けてなかったからね。で、おれの中学はあずま中学。ひらがなで、あずま。

K ほう。ひらがなとは珍しい。
  ちょっとすみません、話が前後して申し訳けありませんが。一つお聞きしたいのが、終戦を知ったのはやはりあのラジオ、玉音放送だったわけですか?

小 (しみじみと)そうだよぉー。それは疎開先の岐阜で知ったんだなぁー。忘れもしない(昭和20年)8月15日。

K 当時何年生ですか?

小 その時が小学校5年生。

K 何が起こったのか理解できましたか?

小 いやいや、ぜんぜんわからなかったよ。とにかく先生が「今日は朝から天皇陛下の御言葉があるから皆、校庭に集まるように」ってな。

K へぇー。校庭に集合ですか?

小 そうだな。校庭に立って聴いたんだな。そうしたら、こっちは何のことだかわからんわなぁ。とにかく終わってから先生がまず泣き出してな。「こりゃ先生が泣き出すようじゃ大変だな」って位なもんだわな。

K 対照的に子供はキョトンとして・・・。

小 そうそう。女性の先生にいたっては座り込んじゃって。「おいおい、こりゃすごいことになったなぁ」って。で、後で日本が戦争に負けたと聞いてそれでようやく俺達も泣いたんだ。これから進駐軍が日本に押し寄せてきて恐ろしいことになる・・・。

K そういう噂が流れたんですか?

小 そうだよ。ところがだ。まったく大変なことにはならなかった。

K ほう。ならなかった!?

小 むかし日本は支那事変以降、向こうの人たちをいじめておったから、自分達のしてたことが今度は自分たちに返ってくると思ってだなぁ。女は強姦されて子供は殺されちゃって、で男はみんな蹴飛ばされて。

 ほう・・・? 男女の間に随分差がありますねぇ。

小 まぁしかし、男も女も似たようなもんだわな。

K 今で言えば北の強制収容所送りみたいな生活が始まると。

小 そうそうそう。

K 金正〇、×〇△※◎▲×スンニダー、×▲□◎※●バカタレガァー!!

小 なっ、何だそりゃ?

K 伊東かおる先生の漫談からの抜粋です!!

小 知らんわ、そこまで細かいこと。お前もそういうネタが好きだなぁしかし。

K 失礼いたしました。ところで、名古屋にも進駐軍は来ましたか?

小 うん。今の北区大曽根な。あそこに進駐軍の物資が着いたんだな。俺は近所なもんだから貨物が着いたとたん駅に行くと米兵がいて、そのとき初めてレモンを口にしたんだな。

K レモン!!

小 そう。初めてだよ。行ってみると連中がレモンをかじってるわけだな。それでそのレモンをこっちへ投げてくれるわけだ。それは今でも忘れもしない。ちょうど雪が積もっとるときでな。真っ白の地面にレモンがグサッと落ちてそれがまたきれいなんだわな。それを拾って雪を払って、米兵の真似しておもいっきりかじるわけだ。

K 何も知らないからおもいっきり?

小 そうおもいっきり。したらかじったとたん「何じゃこりゃ!!」ってなもんで、目からは涙があふれ出る始末でなぁ。「口に爆弾が落っこちたぁ!! まだ戦争は終わってない!!」ってなもんでな。

K 米国はすごい。新種の小型爆弾を持ってきやがったと。

小 そうだな。そうしたら米兵が「NO,NO」ってな。これはチューチュー吸うもんだと教えてくれてな。それから後は、ガムくれたりチョコレートくれたりして、初めて菓子らしい菓子を口にしたのが戦後だったわけだな。

K そうでしたか。

小 だから俺なんかは、今でもアメリカにはとても感謝してるよ。

K そうですかぁ。んんん・・・。

  (かくして師匠は今なお、親米派なのであった。続く・・・)

←数々の懐かしき映像に感慨深い様子であります。

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